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兵は拙速なるを聞くも、いまだ巧久なるを睹ざるなり(『孫子』)
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『戦国の陣形』
乃至政彦、講談社現代新書、760円+税

もしかしたらトンデモ本になるか数年後には忘れ去られているか。

乃至氏の新作。『関東戦国史と御館の乱』(伊東潤氏との共著、洋泉社歴史新書y)は刺激的でしたが、その後の『上杉謙信の夢と野望』(洋泉社歴史新書y)はやややり過ぎの感があったように思います。

本書も斬新な内容です。荒唐無稽と思う部分も少なからずありますが、それこそが中世軍事史における研究の蓄積のなさを示していると言えます。本書にもあるように現代ではこのレベルを叩き台として考証を重ねていかざるを得ないということでしょう。

ラグビーやサッカーでもフォーメーションがあるのに、なぜ個々の兵がバラバラに戦うのか。兵の集団を効果的、有機的に運用しているとは言い難い、歴史ドラマの合戦シーンを見ながら抱いていた違和感が多少なりとも解消したかもしれません。

村上義清の必勝陣形
大名直轄の兵を創ろうとした武田信虎の先見性については過去に触れていますが、本書ではその子晴信(信玄)に圧迫された村上義清は信玄の首だけを狙った「必勝陣形」を生み出したとします。義清はそれまで常勝であった信玄に手傷を負わせただけでなく、二度も信玄を退けています。それ以降、信玄を破った者が現れなかったのは不思議でしたが、本書を読んで理解できたように思います。その後、義清の陣形を取り入れた上杉謙信が川中島の戦いで例の信玄との一騎打ちをするのですから(諸説あり)、本書の内容が事実であれば、村上義清の発想がいかに画期的であったかわかろうというものです。

総大将の首だけを狙って軍勢を突撃させるというのは、彼我の状況に差がない限りはリスキーな賭けみたいなものですから、桶狭間の信長(迂回奇襲や正面奇襲ではなく正面攻撃)や大坂夏の陣での真田信繁(幸村)のように限定的な局面でしか発生しないのでしょう。

合戦布陣図の再考
また、川中島や姉川、長篠に関ヶ原と戦国の合戦では様々な布陣図が描かれていますが(江戸時代の屏風絵だけでなく、部隊を「凸」で示すような戦況図を見かけたことがあると思います)、当時、実際に戦っていた人々でも誰を相手にどのように戦っていたかはっきりとはわからなかったろうに、あのような戦況図にどこまで信憑性があるかというのは疑問でした。

本書では関ヶ原の戦いの展開についての検証を行っており、今後の各方面でのさらなる議論を期待したいところです。ドイツのメッケル少佐が関ヶ原の布陣図を見て、即座に「西軍の勝ちだ」と言った話は知られていますが、この話が創作(もはや伝説)というのは以前からあった説なので目新しさはありません。むしろ、あの布陣図、というか布陣は本書で指摘されるまでもなくおかしい。

おまけ
著者は上杉氏について書かれていたせいなのかよくわかりませんが、伊達政宗に恨みでもあるのでしょうか。『戦国武将と男色』(洋泉社歴史新書y)という著書もあるようですが、ここでも小早川秀秋が片倉重綱(子十郎景綱の子)を追いかけた話を見るとは。あとは『甲陽軍鑑』の史料的価値はあらためて見直しておいた方がいいでしょうね。孔明の罠?的な終わり方は狙いすぎな気がしないでもありません。
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