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兵は拙速なるを聞くも、いまだ巧久なるを睹ざるなり(『孫子』)
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昨日の続き(第2回)

『新解釈 関ヶ原合戦の真実 脚色された天下分け目の戦い』
白峰旬、宮帯出版社、本体1,300円+税

PC版は右下にアマゾンのリンクを貼りましたので、興味のある方はどうぞ。

■「第一章」について
■■史料の使い方(史料批判)
ここで唐突に生駒利豊の書状が登場します。まずは生駒利豊という人物の説明からしなければなりませんが(現に本書ではそうしています)、一般には馴染みの薄い、というかほとんどない史料を用いるのであれば、最初に史料の信憑性、史料価値から検証すべきではないでしょうか。筆跡、料紙(用紙の原料)、言葉遣い、内容などから史料の検証が必要です。生駒利豊の略歴を述べても、それは書状の信憑性とは別の話です。

あるいは、この書状が所収されている『生駒家戦国史料集-尾張時代の織田信長・信雄父子を支えた一家』(生駒陸彦・松浦武編)を読んでください、ということなのかもしれませんが、この書籍は手軽に入手できるものではありません。所蔵している図書館も限られています。であれば、この書状の信憑性について、もう少し丁寧に説明をした方が、読者の理解も得やすかったのではないかと思います。

書状の写真は掲載されていますが、本文では筆者による現代語訳のみが示されており、釈文がないのでは、現代語訳の正誤を確かめようがありません。筆者はほかに解釈の余地はないと考えているのかもしれませんが、書状の写真があったとしても、古文書を読める知識が乏しい人にとっては、判断材料がないのと同じです。

■■史料批判の不足から来る説得力の希薄さ
関ヶ原の戦いに参加した誰かが生駒利豊に仮託した可能性があるかどうかの判断はしようがありませんが、仮に、「関ヶ原の戦いに参加した」「生駒利豊」が、戦いから十年ほど後に、当時を思い出して(あるいは過去に書き留めたものを見ながら)書いた書状だとしても、書状の内容がすべて事実であるとは限りません。

一次史料かどうかの史料批判が不足したままで、「一次史料であるから」と、そこに書いてあることすべてが事実であり、書いていないことは「存在しなかった」かのように扱うのは疑問があります。自分の都合のいいように、事実でないことを書き加えたり、あるいはその反対に、都合の悪いことを書かなかったり修正した部分がないと言えるのでしょうか。書状の内容は興味深いのですが、他に同様の史料がない、孤証であるのなら、用いるには慎重であるべきです。

そのあたりの史料批判が不足していると感じられるため、書状の内容も鵜呑みにはできません。本節の最後で鈴木眞哉氏の著書を引いて、鈴木氏の「白兵戦の存在を否定した指摘」に対し、生駒利豊の書状の内容は「有効な反証になるであろう」としていますが、これには首肯しかねます。なお、次節に取り上げられている細川家の「首注文」の史料(『綿考輯録』)は、白兵戦があった証左にはなりますが(当然、関ヶ原の戦いでも白兵戦は存在したでしょう)、遠戦志向を否定する根拠にはなりません。

■■ずれていく論点
そもそも、本書で引用している鈴木氏の指摘、「戦国大名たちにとって白兵主義は、そもそも無縁のものであった」、「戦国時代もまた白兵主義時代などといえるものではなく、遠戦志向のきわめて濃厚な時代だったのである」(鈴木眞哉『謎とき日本合戦史-日本人はどう戦って来たか』)、このどこをどう解釈すれば「白兵戦の存在を否定した」と言えるのでしょうか。

私の手元には鈴木氏の前後の著書(『戦国合戦の虚実』『戦国時代の大誤解』)がありますが、鈴木氏の主張は、戦国時代(に限らず、南北朝時代や室町時代も含めて)における合戦の主体は遠戦志向(弓矢・投石、のちには鉄砲)であって、日本古来と思われている「白兵主義」は、明治以降の軍部、あるいは教育機関によってつくり出されたものであるということで、白兵戦自体の存在を否定しているものではありません。

むしろ、戦前の軍部(とその周囲の教育機関、歴史学者など)が戦国時代の合戦の真の姿をゆがめたという点では、二人の主張には共通する部分があるのではないでしょうか。

と、ここまで書いてきて気づいた点がありますが、それはまた次回に。

(次回に続く)
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