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兵は拙速なるを聞くも、いまだ巧久なるを睹ざるなり(『孫子』)
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『新解釈 関ヶ原合戦の真実 脚色された天下分け目の戦い』
白峰旬、宮帯出版社、本体1,300円+税

関ヶ原の戦いにおける通説を批判的に検証する姿勢は評価しますし、内容も興味深いものですが、史料の使い方を中心に疑問が残りました。

全般的に通説におけるいくつかの個別部分を批判したに留まっていて、関ヶ原の戦い全体の流れをどのように解釈するかについては今後のさらなる研究が必要だと思いました。通説を否定しただけで真説を考察できていない部分もありましたが、現状では結論が出ない論点も少なくないですから、問題提起としては重要でしょう。

なお、引用した史料については、原則として筆者が現代語訳したものを示すとしていますが、重要な史料については、現代語訳だけではなく釈文(ここでは読みにくい筆跡を読みやすい字体に直したもの)も示すべきだったと思います。

■「序章」について
■■『当代記』の記述を鵜呑みにしていいのか
最初に『当代記』が出てきますが、史料の中では成立年代が早いものです。成立年代は一般に寛永年間(1624~44)とされていますが、本書では元和九年(1623)説も紹介しています。関ヶ原の戦いから二十年ほどしかたっておらず、後代の軍記物や家康の神格化の影響は少ないと思われます。『当代記』の「関原合戦」部分は、本書中に筆者による現代語訳がありますし、『当代記』全体も『史籍編纂苐二』に収められており、インターネットでの閲覧も可能です。

ただし、『当代記』の記述自体があまりにそっけないとも感じます。『当代記』は他の記録を再編した編纂史料で、年代や事柄によって、記述の内容や量に偏りがあります。本書では「記載内容に脚色・誇張がないという点では一定の信憑性はあると思われる」としていますが、これはむしろ、『当代記』の編纂者(一般に家康の外孫である松平忠明とされる)の史料的な制約(情報の偏り)なのではないでしょうか。

とはいえ、いくら記述が多いといっても、話に尾ひれがついているような後代の軍記物や、「公式文書」といっても家康の神格化の影響を受けているような幕府の編纂史料を用いる場合には注意が必要なことは言うまでもありません。

■■戦場と合戦の名称
合戦の名称について本書では、合戦当日や直後の関係書状から「山中(やまなか、美濃国内の地名)合戦」として、本来の主戦場を関ヶ原でなく、山中(三成方の諸将が布陣した場所)としています。「山中」は通説では大谷吉継が布陣した場所で、主戦場とされる関ヶ原からは1.5キロほど西になりますが、文字通り狭隘な地で、少なく見積もっても二万から三万はいたと思われる西軍の主力、宇喜多秀家や石田三成、小西行長らはどこに布陣して、どのように東軍と戦ったと考えるべきでしょうか。

合戦の呼称は通常、戦った地名によりますが、いわゆる「姉川合戦」にしても、これは徳川氏における呼称で、織田氏・浅井氏は「野村合戦」、朝倉氏は「三田村合戦」といって、それぞれの軍が戦った地名に因って呼んでいます。「長篠合戦」にしても、この戦いは長篠城を囲む武田軍に対し、後詰に来た織田・徳川軍との間で生起したもので、実際に戦ったのは設楽原(したらがはら)、あるいは有海原(あるみはら)であり、「長篠設楽原(の戦い)」と併記されることもあります。

本書の第四章では『日本戦史』の布陣図に歴史的根拠はないとしています。たしかに、いくつか伝わっている布陣図の中には、福島正則が東軍の陣地から飛び出しすぎているものや、本多忠勝の布陣の向きがおかしいものもあるので、そこは同意しますが、では両軍がどこにどのように布陣したのか、あるいは西軍は布陣する間もなく東軍に攻められて崩壊したのか(そうだとしても、東軍は各部隊が西軍のどの部隊と戦ったのか)は示されていません。流動的な戦場で、誰がどこに布陣して誰と戦ったのかを明らかにするのは困難ですが、この部分は今後の考証が必要でしょう。

(次回に続く)
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